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劇団飛び道具『ロキシにささぐ』アトリエ劇研

7/29(金)
アトリエ劇研に着く。19時前になると、予定以上のお客さん。
急遽、前列を増やす。宣伝美術家の清水さんが日曜日のぼくのオープンキャンプにいけないのが残念という。制作の安藤きくさん(ずいぶん、やせていてびっくり)にあげようかと思っていた『これからのアートマネジメント』の僕が書いたものを渡すと、ウイングフィールドのコラムで、3つも間違いを見つけてくれる。増刷とか改訂版が出るといいなあ、そうすればなおせるので(一番、ああ、これはぼくの中島陸郎さんへの屈折した気持ちが出たような間違いもあったww)。

劇団飛び道具『ロキシにささぐ』(たぶん、110分強)。作・演出の大内卓さんがミクロネシアのヤップ島にいっていたことで、3年ぶりの公演となるとのこと。この劇団についての記憶がかなり曖昧で、京大西部講堂で見たのが最初だったかも知れない。

そのときの印象は、なにか特定できない世界、かなり民俗学的なもので、差別とかそういうことなどもあり、じつに暗い、そして僕好みのものだったという記憶なのだが、そのあと、ちょいとそうでもないものがあったり、でも、石炭部屋みたいなものもあったりで、どこか異国風味の、遊気舎がときどき持っていた笑いのグロテスク性みたいなものと、哲学的寓話劇である下鴨車窓との中間点あたりを埋める貴重な中堅(いまはすでにベテランか)劇団という感じが一応の印象かな。

で、今日の観劇は、もう完璧に「よかった!」の一言。
それ以上、もう何もいうことがないぐらいしみじみといいお芝居体験をした。マイクロスリップといってもいいような、絶妙なはずれかたの会話くずれのおかしさ(藤原大介さんと山口吉右衛門さんとの絶妙なやりとりはもちろん、脇を固める堀貴雄さんのボケぶり、渡辺ひろこさんの普通の人ぶりw、ゲストの駒田大輔さんの賢いのにどこか弱気ないい人ぶり・・・)もあって、余裕でこのような絶望すれすれのムラ社会における庶民の生活の危機(親子間の断絶・・)をしずかに垣間見ることができるのである。

ゲストの吉村奈知さんは、鳥篭屋をやめて、観光物産屋で新しい島経済に関わろうとするというニヒルな役で、こういうほろ苦い味がまたこの芝居をひきしめる。

(以下、ネタバレ注意:かな?)



島と鳥。鳥篭と鳥、ロキシ。島にはいかなった蛇にやられ・・・飛べるのかロキシ。

そして、いまの日本の、もうきちんと向き合うことが不可能なぐらい病巣が深く広い東日本被災(福島原発事故)後の混迷、そして、すでに動き始めている日本企業と外国資本との旺盛な復旧ビジネス関係なども想起され、ほんとにいまと接続させる糸口の多い観劇体験であった。

もちろん、メインは、帝国資本主義が突然に国家成立以前の離島の秩序社会にやってきたときの地元のムラ(小さな自然村)悲劇、とくに、観光という名の略奪について考えさせられるお芝居ではある。あと、伝統文化が郷愁的にふり返るような牧歌的なものではなく、残酷な格差、身分、階層秩序から成り立っていて、タブー的な通婚や職業転換に対しては、ムラ全体によるシカトが起きるという点もきちんと押させられていて、それが、外部の文明化・貨幣化された人たちによる功利と好奇の欲望・視線によって、内部的にも崩壊する過程までもが透視されて・・・

まだ、父母役をするには若いのだろうが、お父さんシロウ役の藤原大介さんと母親ハギ役の井沢はるひが、旧来の島文化から出られず、でも病院の威力には勝てないということにもうすうす気づき、息子タミ(鈴木正悟さんが、貨幣経済に適応する庶民階層の若者役を好演)が、西欧の人たちと付き合っていて、伝統漁に出ないでいても、なかなか昔自分の父が強制したようには、息子を腕ずくで自分を継がそうとはできない。

そういう面では、野草をメイン調合する薬師(産婆さんでもあるようだ)お母さんハギのほうが、娘サラ(加藤有子さんが、すこしアニメ声的ぶりっこ味もいれながら、しっかり者のお母さんを継ぐ気の強さを出している)へは厳しく、しかしやっぱり後半になるとそれもまたかわっていくところが、なかなかうまくときの経過、人たちの心の変化を描いている。

島の空気、潮騒の音、そこにはいってくる発電機(これももちろん重要なアイテムだなあ)の音が入ってくる。ネオン(笑)、伝承医療。出産。特産品、お土産。伝承の秘密厳守。名を受け継ぐこと。鉈を研ぐ。うつ病。
文化人類学的観光ということの悪い面と、でも、プランテーション化よりはレスワースなのかどうかということにも頭がいく。
文明に出会ってしまう島が植民地化してしまうと、そのあとは、カリブの島が典型だけれど、プランテーション化して、まったく、自立できない島になってしまうという大悲劇が待っている。

ちょうど読み終えた、川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書276、1996年)のあとだったこともあるし、いろいろ個人的なこともあって、有益な週末観劇だったなあ・・・
Commented by 大藤寛子 at 2011-07-31 07:34 x
ありがとうございます。行けそうに無かったので、観劇レビュー有り難いです。素敵な時間だった事が伝わってきました。下鴨車窓との比較、飛び道具の世界の要素。なるほどと思いました。
Commented by kogure613 at 2011-07-31 15:32
こちらこそ。
丁寧に作られていて、とても、面白かったので、つい、絶賛してしまいました。こちらが気づかなかったこともあるでしょうし、あるいは、こことここの関係は?とすこし思ったことなども少しはありましたが、京都の演劇界の分厚さを感じて嬉しかったです。
by kogure613 | 2011-07-29 23:14 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(2)

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