今村忠純「フェミニズムの邦子」、 暖かい結婚披露宴に出席
2015年 01月 31日
志賀直哉は、いわゆる山科ものとよばれている「一連の材料」をもとにして書いた「瑣事」「山科の記憶」「痴情」「晩秋」を、1925年9月から1926年9月までの、ちょうど1年にわたし、この順序でたてつづけに発表している。
「この一連の材料は私には稀有のものであるが、これをまともに扱ふ興味はなく、此事が如何に家庭に反映したかといふ方に本気なものがあり、この方に心を惹かれて書いた。」
「続創作余談」(1938年6月)には、このように書かれており、さらにつづけて「邦子」は「前の材料での心的経験を素に、存分に使った小説」とも書いていた。山科ものの一連の後産として「邦子」という作品の書かれていたことが分かる。
<内容説明>
1920年代から40年代、およそ関東大震災から終戦までの文学は、明治以来の文豪、藤村・秋声・荷風・潤一郎・直哉・和郎らと、新しい文学の開拓者たる利一・康成・辰雄・重治・整・淳・治などが華々しく活躍した日本文学史上空前の豊饒の時代と言える。それらの重要作品を「マチとムラと」というコンセプトを通して新たなる読みを提示。これから漸く始まる本格的な昭和文学・文学史研究の読みを探る共同の試みである。
<目次>
日本文学における〈昭和〉―この本の成りたちについて―(小田切進)
もうひとつの都市小説―林芙美子『放浪記』をめぐって―(渡辺一民)
フェミニズムの邦子 (今村忠純)
丸善の風景―大正期デカダンスの諸相―(石井和夫)
対語的世界のガリヴァー―芥川龍之介「河童」試論―(助川幸彦)
小川未明「金の輪」の時と場所―夭折の民族・風土の象徴的形象―(宮崎芳彦)
反・山の手の物語―「痴人の愛」の戦略―(浅野洋)
田園の散歩者―都市を夢想する―(野沢京子)
かくてわれ東京の底に澱めり―宮沢賢治論覚書―(宮川健郎)
坂の町の”未成年”―小林秀雄と「故郷」―(伊藤義器)
〈めげない人達〉への道程―広津和郎の長編小説―(片岡美佐子)
太宰治の再出発―鎌滝から御坂峠へ―(笠井秋生)
〈敵〉からの〈教へ〉―横光利一「紋章」私見―(芹澤光興)
「西方の人」における〈天上〉と〈地上〉の問題―(佐藤善也)
ダヌンツィオの受容―郡虎彦と三島由紀夫をめぐって―(平山城児)
墜ちた偶像―島田清次郎『我れ世に敗れたり』を読む―(石崎等)
夢の中の〈隠れん坊〉―伊藤整『街と村』論への一視覚―(片岡豊)
『雪国』小考(田中実)
『生々流転』における女性一人称(関礼子)
饒舌のゆくえ―石川淳『普賢』における「ことば」―(佐藤秀明)
「街道」をめぐる「言葉」―『夜明け前』小論―(池田一彦)
『縮図』論序説―銀座から白山へ―(小林修)
『暁紅』『寒雲』の位置―茂吉におけるヨーロッパ―(太田登)
熱海の舟橋聖一(藤井淑禎)
『踊子』論―映画と荷風―(松田良一)
幻影の大地―島木健作「満州紀行」論―(中川成美)
連続する広重・連続する転向―中野重治『広重』論―(林淑美)
吉行淳之介の出発―『原色の街』素描―(三好行雄)
編集を終えて
小田切進先生略年譜
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