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エイチエムピー・シアターカンパニー『四谷怪談』鼠組@ウイングフィールド 長門洋平『映画音響論―溝口健二映画を聴く―』

2016/9/8(木)
ウイングフィールドへ。朝は強い雨だったが、一気に涼しくなる。エイチエムピー・シアターカンパニー『四谷怪談』、昨日からだが、昨日は女優だけの猫組で、今日は男優5名による鼠組の初回。
開場までにワンドリンクサービス。猫組のみなさんが接客、案内。ということは猫組公演のときは、男性のホスピタリティなのだろうな。
客席は、前のコンブリ団『カラカラ』と同じ配置。はせひろいちさん好みのように思える。ゆったりしていて、座布団が3枚とか2枚で楽ちん。同じ一番前の上手端に。端は鞄などが置けるし足が伸ばせる。ただ、今回は映像が多用されているので、正面真ん中が多分最適ポジションなのかも知れない。

前に、試演会を見させていただいたので、その後、映像や音響が付き、更に随分と鑑賞者のために分かりやすく工夫されていたのにまず感心する。
きっと、初見の方もいま同じ俳優が何役をしているかは白い布に映されて分かったことだろう。もちろん、喜兵衛とか長兵衛とか出てきても、相関関係が分からないこともあるだろうが、それは、当日パンフに載っているので、予め、あるいはあとでふむふむと思えばいい。でも、もっと知りたい人は500円で台本もゲットできるし・・・

音楽(吉岡壱造)は、第10場まであるので、場面転換の時が中心。映像はけっこう細かく忙しい。小道具のかわりをしているので、すこし滑稽になるところもまた面白さ。
男性がお梅やお岩、お袖を演じるというところで、歌舞伎的かと思ったが、あまりそんなになぞるようではなく、淡々としていて、声の大きさの違いなどで演じ分けている。でも、やはり、髭のお梅とかおかしくなれば笑えばいいということをそういえば前説でも触れていたなと思いながらにやにや。

最近では、19時半とか19時とかキリの良い開演時間がほとんどなのだが、あえて、19時45分という設定。そのかわり、ぴたりと(音入りは44分56秒ぐらいだった)始まったので、そんなには遅くはならない。90分ということも前説で触れられていたが、開演時刻の研究というのも、午前11時公演というのも増えてきているし、すこしまとめておくといいかも。

エイチエムピー・シアターカンパニー現代日本演劇のルーツⅢ『四谷怪談』ウイングフィールド 19:45~21:18 http://www.confetti-web.com/detail.php?tid=34545&

鼠組: 澤田誠(岩、小平、喜兵衛など)、藤田和広(直助、宅悦など)、岸本昌也(梅など)、古藤望(民谷伊右衛門など)、坂本隆太朗(袖、左門など)
<俳優の身体性を最大限に活かし、観客の想像力を刺激する実験的な舞台で注目を集めるエイチエムピー・シアターが次に送るのは怪談劇!
日本三大幽霊で有名なお岩さんの物語、『東海道四谷怪談』を再構築した大人の前衛怪談劇を出演者が女優ばかりの猫組と俳優ばかりの鼠組の2つのバージョンでお送りします。>

原作: 四代目鶴屋南北「東海道四谷怪談」 / 演出・舞台美術: 笠井友仁 / 脚本: くるみざわしん / 音楽: 吉岡壱造 / 映像: サカイヒロト / 宣伝美術: setten design株式会社 / 協力: A級MissingLink、イロリムラ、株式会社MC企画キャストプラン、株式会社リコモーション、がっかりアバタ―、劇団ひまわり、のこされ劇場≡、マゴノテ / 制作: 前田瑠佳 / 提携: ウイングフィールド / 助成: 芸術文化振興基金、大阪市 / 企画・製作: エイチエムピー・シアターカンパニー / 主催: 一般社団法人HMP
9/15に猫組を観る予定(こちらは7名の俳優さんでの公演。内容は同じ)
猫組: 高安美帆、森田祐利栄、米沢千草、水谷有希、原由恵、林田あゆみ、沖田みやこ


長門洋平『映画音響論―溝口健二映画を聴く―』(2014年、みすず書房)をようやく読み終える。
研究室から、溝口健二映画のうち、『残菊物語』(1939)、『近松物語』(1954)、『赤線地帯』(1962)を持って帰って、記述のところを何度も聴く。
黛敏郎の12音音楽が当時とても毀誉褒貶の渦になったという赤線地帯のタイトルバックを繰り返し聴くが、ミュージックソウがどうしても幽霊の登場みたいだなという以外、そんなに奇異でもないのだが、それは半世紀以上経ってしまったからだろう。

それにしても、溝口映画って、音響は控え目のように思える。当時の映画と比べねばならないが。そういえば『浪華悲歌』は研究室にあったかどうか。これなど、伴奏音楽がなく(スイングジャズのタイトルバックとオーケストラ演奏のエンディングだけ)、蓄音器かラジオから流れている音楽や主人公の口笛(ジャズ)、上演されている文楽の音楽以外は、会話と街の騒音などだけであるとあるので、確認をまたしたい。


p32
劇映画の音響は、物語世界外の音=「オフの音」と、物語世界(ストーリー)の音にまず分かれる。
物語世界の音=インの音+フレーム外の音+内面的な音+サウンド・ブリッジ。
インの音・・映像内にバンドや蓄音器などが写っている。フレーム外の音・・いま演奏しているが、フレームの外になっている。
内面的な音・・登場人物の心の中に起因する音。
サウンド・ブリッジ・・時空間の異なる複数のショットをまたいで流れる、物語世界の音。
物語世界外の音=「オフの音」・・・いわゆる「映画音楽」「伴奏音楽(劇伴)」、ナレーションの声・・
p34
音響的素材:声(台詞)、もの音(雑音)、音楽、沈黙。
p57
映画の音楽が有する効果:「投錨」(付加価値、物語の補強)、「異化」。物語世界に「没入」させるか、意識を「中断」させるかという問題。

p232
黛敏郎『赤線地帯』関連の発言から、著者の整理。
劇映画の映画音楽=場ふさぎ的映画音楽+伴奏的映画音楽+対決的映画音楽
「場ふさぎ的」というのは、音がないと客席が白けてしまうというような消極的なもの
伴奏的映画音楽=雰囲気醸成的映画音楽+心理描写的映画音楽
 雰囲気醸成的映画音楽=画面を引緊める音楽+画面を解きほぐす音楽
対決的映画音楽=対位法的映画音楽+客観主義的映画音楽

対位法的映画音楽・・登場人物のムードと全く逆なコントラストを狙う⇒その心理を更に強く浮き彫りにする効果的な方法(p231、黛の1955年文章より)。「画面の伴奏ではなくて、画面が訴えると同じぐらい強い表現力をちがった角度から画面に対抗してぶつけてゆく」「外面の従属物ではなくて」(p232)
客観主義的映画音楽・・「状景や登場人物の主観からみれば全くうらはらな音楽表現によつて、観客の意識に客観性をもたせる役割を果す」(p232,1955年)。
・・・・・・

映画音楽の作曲家研究という領域にも興味あり。黛敏郎さんが『お早う』(1959)、『小早川家の秋』(1961)も作曲。これは、小津安二郎さんの意向だったと、斎藤高順(さいとうたかのぶ)さん。

http://soundtrack-of-ozu.info/
<小津映画の場合、映画音楽が注目されるということはほとんど無かった。そこで、当サイトでは敢えて「小津安二郎の映画音楽」に着目してみたいと思う。
「東京物語」の主題曲は、尾道の厳しい夜明けを表すようなホルンの前奏で始まり、小津が好んだといわれるハープが奏でられ、その後弦楽器を中心とした主旋律が演奏される。重厚感があり、小津映画の持つ調の高さと美しい旋律は、小津作品の主題曲の中でも傑作の一つであることは間違いない。
しかし、「東京物語」の作曲を手掛けた斎藤高順(さいとうたかのぶ)は、その当時全く無名の新人作曲家であった。何故そのような人物が、名作「東京物語」の作曲を任されたのか?斎藤高順の回想録を基に、あまり知られることのなかった事実を紐解いてみたい。>

斎藤高順の回想録「黛敏郎さんのこと」 http://soundtrack-of-ozu.info/memoir-013
<小津組の音楽担当としてすっかり定着したと思われた1959年(昭和34年)、私にとってショックな出来事が起こりました。
「斎藤君、次の作品の音楽だが、黛敏郎君にお願いしようと思うんだが、いかがなもんだろうか。」
突然、小津監督から信じられないような相談を受けました。
<その頃、小津映画は一部の批評家たちから、マンネリに陥っているとか、形式主義で時代錯誤、保守的過ぎる等の批判をされ始めており、そのことは私の耳にも届いていました。
全編『サセレシア』を採用した『東京暮色』が興行的に振るわず、評論家からもあまり良い評価をされなかったことを気にされていたのでしょうか。
<そんなこともあり、小津監督は何か新しい試みを模索していたのかも知れません。
しかし、「変わらないものが常に新しい」という信条を持つ小津監督は、『お早よう』と『小早川家の秋』の二作品は黛さんに依頼しましたが、再び私に音楽担当を任せてくださいました。>


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by kogure613 | 2016-09-08 22:44 | Trackback | Comments(0)

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