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ケン・ローチ監督『麦の穂をゆらす風』キリアン・マーフィー主演

6/26(火)
昨夜書いた文章を削除したり手直ししたあと、DVD鑑賞。
いい映画だった。ケン・ローチ監督の6枚組みセットを買っていたのだが(そのうち2枚しか見たことがなく、でも「ケス」がないのが残念。「リフ・ラフ」はビデオで前から所有)、一番新しい映画を見ることにした。

ケン・ローチ監督『麦の穂をゆらす風』。2006年、124分、アイルランド=イギリス=ドイツ=イタリア=スペイン映画(いろいろと資本が出ているからこうなるのだろうが、これだけ多くの国の名前があがると、結局どこの映画っていう感じもするなあ)。
アイルランドの南、歌ははすかに響くだけ、独立のお祝いにフィドルが一度だけ人びとを踊り揺さぶるけれど、ケン・ローチの喜劇的なユーモアもほとんど(まったく)なく、実にアイルランド共和国の独立にいたる独立ゲリラ戦とそのあとの条約派と共和国派に分裂していく苦くつづく内戦のはじまりの映画だった。

切なくつらく暗澹たる気分になるはずの物話のはずなのに、見終わると、なぜかすがすがしい気持ちになる。その内容よりも、映画の目線が暖かくて、社会は厳しいのにその自然や風景や人物はその命を精一杯生きようと美しい姿を監督の前に見せるからだろう。気持ちよくて、しかも、英国人が英国軍の醜さを何の気負いもなく描いてさらっとしているのがすごいことだと思う。1920年ぐらいにそれがあったか分からないが、日本の植民地だった朝鮮半島における抵抗・独立運動を日本人の監督の誰がカメラに出来るかなあ、とそう思うだけで気が遠くなる。

一緒についていた、ケン・ローチ監督を紹介したDVD(BBCのものか)も40分ほどだが、見てしまう。サッカーがうまいんだなあ、とか、電気工の父親と仕立屋の母親の間に生まれたケン・ローチがグラマー・スクールに入れてオックスフォード大学に入学して、BBCへ入って、という生い立ちとかを確認したりする。

男たちの物語がケン・ローチの場合多い。そしてそのほとんどが労働者や農民である。そのなかでは異色の主役、事件さえなければロンドンの大学病院に勤務してミドルクラスに行けたデミアン。ところが、人の命を助ける仕事をする予定が、ゲリラ軍に入り裏切り者を射殺する役目を担うことに。つまり、兄テディの指令が馬の少女によってもたらされたのだった。しかし、その指令の紙には、裏切り者はいかに親しくとも射殺、裕福で英国兵のために使用人を裏切らせた農園主は追放と書いてある。でも、テディの命令に従わず(問題にはならなかったようだが)、まずデミアンはこの農園主を射殺してしまうのだった。

ここに、そのあとの兄弟の悲劇がすでに萌芽としてあったのかもと、近大に向かいながら思っている。社会主義への道に進む弟デミアンと、アイルランド民族資本は大切にしなくちゃ鉄砲も買えない、という民族主義的資本主義を認める兄テディ。中学生時代に読んだヘルマン・ヘッセの『デミアン』をちょっと想いだしたりもした。
by kogure613 | 2007-06-26 14:06 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(0)

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