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木下惠介『わが恋せし乙女』、黒澤明『姿三四郎』、浅沼圭司『昭和あるいは戯れるイメージ』

8/18(日)
木下惠介映画と比べることもあって、黒澤明監督作品『姿三四郎』を見る。ただし、97分で1943年に公開されたのだが、翌年、電力事情から80分以内に制限されたため、フィルムがカットされ79分になったが、僕はそれを観た(満州国⇒ソ連のフィルムが出てきて、91分にまで戻ったものもあるらしい)。台詞が聞き取りづらく(漢語のせいもあり)、途中から字幕ありにした。そうするとずいぶん理解が進む。

姿三四郎(藤田進)が、村井の娘・小夜(轟夕起子)はじめ若い女性にだけは弱い柔道家のお話。DVDにあるように「コマ落としやモンタージュを駆使し世間を驚かせた」というわけで、ストーリーなどは単純だが映画技法において、その巧みさが評価されたのだろうなと観ながら思う。

夜は、木下惠介映画『わが恋せし乙女』、1946年、75分。前作が室内劇だったのに対して、浅間山の麓でのロケがいっぱいの作品。いろんなことを試したい木下惠介(欧米映画の影響ももちろんあるし、みんな若いスタッフだからこそであろう)。

兄と妹。でも妹は捨て子で兄とは血が繋がっていない。兄は戦争で中国大陸に5年間。その間に妹には好きになった人(野田:増田順二)ができてしまった。

三角関係なのに、すがすがしい音楽がいっぱいの映画。テーマソングが繰り返される(サトウ・ハチロウの歌詞がさきにあって、木下忠司が作曲したという)。「若い黒牛 黒牛が(ホイ)/赤い牝牛に/あのねと云うた/あのねのその後/云えなんだ」(コロンビア専属栗本尊子による吹き替え)。

「実弟、木下忠司の映画音楽デビュー作である。なんと、忠司は騎兵隊出身。だから、乗馬指導もしたという。妹の美子役、井川邦子が、実際に乗馬訓練をして長いシーンをスタントマンなしでこなしている。家族思いの恵介であるからして、この主人公、兄の甚吾(原保美)にも忠司の面影があったりする(ハーモニカを吹く少年時代)。

母おきん役に東山千栄子。細いのでちょっと心配になるが、そうそう、この後にもっとふっくらと東山さんしたのだなと気づくw(どうしても『東京物語』の東山さんのイメージが強すぎるから)。母と兄の愛情の強さ。井川邦子は木下組で欠かせないバイプレーヤー。主役はこれだけだったのかも知れない。

読んでいる途中の本の抜き書き。
浅沼圭司『昭和あるいは戯れるイメージ―『青い山脈』と『きけ わだつみのこえ』』(水声社、2012年)より:

『青い山脈』について p21
<…敗戦による一種の虚脱状態のなかで、明確な未来像を描けずにいたひとびとにたいして、あるいは、まるでお題目のようにとなえられていた「民主主義」や「男女同権」などの実態を、なおとらえられずにいた…ひとびとにたいして、この映画はきわめて明解な「手本」(モデル=イメージ)を提供した」。

NHKスタッフによる『日本海軍400時間の証言 軍令部・参謀たちが語った敗戦』について
p71-72
<…国家の最高統率者である天皇が、個人的にどう考えていたかはべつにして、公的(法的)に責任を問われることはなかったし、したがって天皇は戦争犯罪(あやまち)を犯さなかったのだから、天皇にたいする輔弼責任をもつひとびと―具体的には各大臣や陸海軍の指導者ら―もまた戦争にたいして特別の、すくなくとも輔弼という業務に関しては、戦争犯罪の責任をもたないことにもなるだろう。こうして、15年にもおよんだ、そして国の内外に悲惨な破壊と大量の死者をもたらした…戦争にたいして、BC級の戦犯として裁かれ、処刑されたひとびとをのぞき、結局だれもが責任をもたないという奇妙な事態が成立する。>

この前に見た映画『香華』、そこでBC級の戦犯として死刑になる江崎(加藤剛)のことを思い出す。
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by kogure613 | 2013-08-18 23:20 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(0)

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