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清流劇場『Arturo Ui アルトゥロ・ウイ』インディペンデントシアター2nd

2016/10/20(木)

清流劇場の公演を拝見して毎回思うのだが、この大勢の役者さんたちをこのようにがっしりとまとめあげ、キーボード伴奏(音楽:仙波宏文)で合唱する舞台ってほんとに貴重だな、有難いなと思う。満席なのもとてもうれしい。

新国立劇場などでも再演すべき内容と演出ではないかとも思う。関東のみなさんはじめいま日本中で観て考える必要のある舞台であるから。(あとで調べたら、新国立劇場で2005年、ハイナー・ミュラー演出のものを上演していた。もちろん、ドイツ ベルリナー・サンサンブルによるドイツ語でのものだったが)


八百屋舞台(すこし変形)。シカゴの八百屋さんが出てくるからではないけれど、ブレヒトもドイツをアメリカのギャング世界の小さなトラスト(財閥)に置き換え矮小化しつつ、世界の窓を開けたわけだなあ。

シカゴのギャング、ウイ(上田泰三)の赤い旗。黒い星印(ダビデの星をどうしても連想)。旗は、星印がなければ、赤字に白。巧みな反転だ。それに、ウイのサル的仕草。ハイナー・ミュラーはイヌ仕草だったと当日パンフ(猛烈に詳しく分かりやすい冊子)に市川明さんが書いている。


第6場で、ウイが、老俳優に歩き方、座り方、そして演説の仕方を教わる。サル的な毛づくろいや神経質な仕草が徐々に減っていく。ラストにすこし出るあたりも細かい演出である。

確かに、足を伸ばしてあるく姿や、手を組み、腕を組むことで、小心さを見せないようにできていて、ああ、ヒットラーも同じように振り付けしてもらったのだろうなと思わせる。

シェークスピアのジュリアス・シーザー。アントニオの演説。いまのわが宰相などよりもあっという間に上達する。


清流劇場 文化庁芸術祭参加公演 大阪市助成公演『Arturo Ui アルトゥロ・ウイ』インディペンデントシアター2nd(恵美須町駅から5分ぐらい)。19042126ぐらい。

原作:ベルトルト・ブレヒト

構成・演出:田中孝弥

翻訳・ドラマトゥルク:市川明

ドラマトゥルク*柏木貴久

出演

西田政彦(遊気舎) / 上田泰三(MousePiece-ree / 峯素子(遊気舎) / 八田麻住 /

髙口真吾 / 得田晃子 / 谷屋俊輔(ステージタイガー) /

木元としひろ(劇団感劇荘) / 阿部達雄 / 藤島淳一(劇団アルファー) / 久家順平 /

倉増哲州(南森町グラスホッパーズ) / 髙島理(mannequineko /

山下春輝(ギヴ・ザ・ブロン) / 鈴木康平 /

藤本栄治(劇団潮流)

音楽・演奏:仙波宏文

特別協力:森和雄 / 大野亜希



<田中孝弥よりご挨拶
おかげさまで、劇団設立20周年となりました。
20周年ということで、ボクがドイツ演劇に興味を持った原点の演劇人、ブレヒトの作品に取り組むことにしました。上演作品の原題は『Der aufhaltsame Aufstieg des Arturo Ui(抑えればとまるアルトゥロ・ウイの興隆)』といいます。
主人公アルトゥロ・ウイのモデルは、ナチスドイツのヒトラーです。第二次世界大戦前夜、ヒトラーがドイツで台頭していく様子を、シカゴのギャング団の物語に置き換えて描かれた寓意劇です。ホロコーストや戦争を繰り返さないためにも、ボクたちは理性的に考え、行動すれば、ヒトラーのような独裁者の台頭を抑えればとめられるはずだ、そのような物語です。
しかし、一体なぜあの時代、ヒトラーは人々の支持を集めたのでしょうか。アメリカ大統領候補のトランプ氏のように《今よりも良い暮らし》の提案があったからではないでしょうか。そして問題は、それが「誰のため」の《より良い暮らし》なのかを考えた時に、排除すべきもの、不都合な対象も現れてくるということです。とはいえ、ボクたちは聖人君子ではありませんから、《自分がより良く暮らしたいという気持ち》は大きくなっていきます。こんな些細な気持ちがひょっとしたら厄介な事態を引き起こしているのかも知れません。
ヒトラーは暴力のみによって独裁者になったわけではありません。ボクたちの中にある《自分がより良く暮らしたいという気持ち》を見抜き、民主主義の手続きによって、議会で多数を握り、独裁への道筋をつけました。
2013年、麻生副総理は「ナチスの手口を学んだらどうか」と発言しましたが、その後も与党は安保法制を強行採決し、なし崩し的に既成事実を積み重ね、2016年の参院選で、憲法改正案の発議要件の衆参3分の2の議席を獲得しました。
ボクたちは、どのような社会をめざしているでしょうか? ヒトラーは決して、特殊な才能を持った怪物だったわけではなく、一人の人間でした。彼の台頭(興隆)を許したことは、ボクたち一人一人の中にある《自分がより良く暮らしたいという気持ち》が、「怪物の登場」を望み、「怪物」に仕立て上げたかったからではないかと思うのです。その怪物が自分たちに襲ってくるとは、思いもせずに。
ですが、もう手遅れだなんて、認めたくはありません。登場した怪物がボクたちを攻撃してきた時、ボクたちのために声を上げてくれる人が一人も残っていないようなことにならないように。そんな願いを込めて、ボクはこの作品と向き合おうと思います。>

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◆ 人物・事項対照表 ◆
ギャングを扱った歴史劇『アルトゥロ・ウイ』では、1932年~1938年のドイツの歴史がパラレルに映し出されています。
シカゴ市→ドイツ
シセロ市→オーストリア
ドグズバロー→ヒンデンブルク(大統領)
アルトゥロ・ウイ→ヒトラー(ナチス・ドイツ総統)
ローマ→レーム(ナチス・突撃隊幕僚長/ヒトラーによって粛清される)
ジーリー→ゲーリング(ナチス・ドイツ幹部/空軍総司令官等)
ジボラ→ゲッベルス(ナチス・ドイツ宣伝相)
フィッシュ→ファン・デア・ルッベ(オランダの共産主義者)
ダルフィート→ドルフース(オーストリアの独裁者/ナチスに抵抗)
野菜トラスト→土地貴族と実業家
八百屋→小市民
ギャング→ファシスト
港湾施設工事援助スキャンダル→東部援助スキャンダル
倉庫放火事件→国会議事堂放火事件

◆ キャスティング ◆
上田泰三…アルトゥロ・ウイ(ギャングのボス)
髙口真吾…エルネスト・ローマ(ウイの片腕・男色家)
倉増哲州…マヌエレ・ジーリ
阿部達雄…ジュセッペ・ジボラ(ギャング・花屋・足が悪い)
藤島淳一…用心棒
森和雄…用心棒
西田政彦…クラーク(商人、野菜トラストの幹部)
得田晃子…ブッチャー(商人、野菜トラストの幹部)
髙島理…フレーク(商人、野菜トラストの幹部)
久家順平…シート(船舶会社のオーナー)
…フィッシュ(倉庫放火事件の被告人)
…イグネイシャス・ダルフィート(シセロの新聞社主)
木元としひろ…ドグズバロー
鈴木康平…ドグズバロー・ジュニア
…ホック(シカゴの八百屋)
大野亜希…ドグズバローの召使
…少女
谷屋俊輔…ラッグ(「スター」紙の新聞記者)
…グッドウィル(市役所の紳士)
峯素子…オケーシー(シカゴ市の取調官)
八田麻住…ドックデージー(ジボラの妾)
…ベティ・ダルフィート(イグネイシャス・ダルフィートの妻)
山下春輝…ボウル(シート船舶会社の会計係)
…インナ青年(ローマの腹心)
藤本栄治…役者
音楽・演奏:仙波宏文


・・・・


アルトゥロ・ウイの興隆 http://www.nntt.jac.go.jp/season/s267/s267.html
新国立劇場 海外招待作品 Vol.4
「日本におけるドイツ2005/2006」 企画
アルトゥロ・ウイの興隆
作 : ベルトルト・ブレヒト
演出 : ハイナー・ミュラー
出演 : ドイツ ベルリナー・アンサンブル
芸術監督 : 栗山民也
主催 : 新国立劇場
共催 : 朝日新聞社
後援 : 東京ドイツ文化センター
協力 : ドイツ連邦共和国大使館

ドイツ語上演/イヤホンガイド [有料] あり [イヤホンガイド翻訳 新野守広]

<新国立劇場では2001年から海外の優れた演劇作品を紹介し、内外の話題を集めてきました。第4弾となる今回は、「日本におけるドイツ2005/2006」企画のひとつとして、ドイツ演劇界の巨匠ベルトルト・ブレヒトが第二次大戦中に書き下ろした「アルトゥロ・ウイの興隆」を取り上げました。この作品は、ヒトラーとナチスがあらゆる手段を使い独裁者としての地位を確立していく過程を、シカゴのギャングの世界に置き換えて描いたもので、ヒトラー「興隆」の史劇が巧みに組み込まれています。ドイツ語の題に「抑えることのできた興隆」とあるように、ヒトラーのみならず、その登場を許した社会環境をも厳しく見つめた作品です。
さえないギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、市長ドッグズバローと青果トラスト(市場)のリーダーたちの癒着の実態をつかみ、それにつけこんで強請りにかかります。ドッグズバローはやむを得ずウイと手を組むことになり、その結果、次第に権力を増し、青果産業の支配権を握ってしまうウイ。しかしそれを恐れた青果トラストはウイ追放に乗り出します。強行な手段を講じてでも更なる勢力拡大を狙うウイは、側近や周りの人々を手にかけトラストとの和解を選びますが、次第に孤立し、悪夢にうなされる夜を迎えます……。

<この作品は現代ドイツ演劇のもうひとりの巨匠ハイナー・ミュラーの遺作で、数ある彼の演出作品のなかでも最も優れたもののひとつと言われています。ブレヒト自身が創立したベルリナー・アンサンブルによって本国ベルリンのみならず世界各国で上演され、その公演回数は既に300回を越えるロングラン公演となっています。待望の日本初演となる今回、ギャングの物語とドイツ史のコミカルな合流、新しいブレヒト像を見事に描き出すミュラーの演出、ウイを演じるマルティン・ヴトケの常人離れしたパフォーマンスが紡ぎだす現代演劇の傑作をたっぷりとご堪能ください。>

by kogure613 | 2016-10-20 22:20 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(0)

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