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桜木紫乃『氷の轍―北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由』

2020/12/13(日)

久しぶりにのんびり。

読み終えた小説。桜木紫乃『氷の轍北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由』

寒い時期にいいな。

季節、空気、風景、心情などが混じり合う。そういう独特の描写を少し引用:

 

P7(冒頭)

 水平線に鮮やかな朱色の帯が走っていた。

 7月の街を覆う海霧のせいで、今日も一日太陽を拝んでいない。沖に横たわる陽(ひ)の名残はひどく遠かった。

 

136

この街は、どこか肌寒いと思いながら季節が通り過ぎてゆき、はっきりとした秋風が吹く八月末に必ず「夏」を思い出す。毎年、過去形でしか語られない夏があった。

 

164

…前方をゆく腰高のテールランプの赤を見ていると、春先の雪のような速度で胸奥にひとつふたつ、知りたいことが積もっていった。

 

322

 空き地に生えた草――真由はその言葉が持つ。拠り所のなさに身震いしそうなった。穏やかな口調と話しぶりが、余計に彼女の抱えた記憶の重たさを想像させた。

 

385

 生まれついての役者には、舞台の下で踊り続ける運命もあるに違いない。行方佐知子の一生は滝川信夫の死によって、より鮮やかな輪郭を持った。

 

417(ラスト)

 耐えがたいひとりを生きている者にも明日はある。明日がある限り、朝は訪れる。朝が訪れるたび、ひとはいつもひとりを思い知る。そうして、耐えがたい真実を抱え続けるひとにも、次の季節は訪れる。

 夏空の下、明日の空模様を祈りながら足を早めた。

 

 

桜木紫乃『氷の轍北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由』2019年小学館文庫、2016年単行本発行


https://honto.jp/netstore/pd-book_28022598.html

<釧路市の海岸で男性の他殺死体が発見された。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、被害者の自宅で北原白秋の詩集「白金之獨樂」を発見し。『STORY BOX』連載に書き下ろしを加え単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。 二人デ居タレドマダ淋シ、 一人ニナツタラナホ淋シ、 シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、 シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。 (北原白秋「他ト我」より)北海道釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見された。被害者は札幌市の元タクシー乗務員滝川信夫、八十歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之独楽』を発見する。滝川は青森市出身。八戸市の歓楽街で働いた後、札幌に移住した。生涯独身で、身寄りもなかったという。真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁を、わずかな糸から紐解いてゆく。北海道警釧路方面本部。新たな刑事の名は、大門真由。 【編集担当からのおすすめ情報】 ロングセラー文庫『凍原 北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂』以来となる、北海道警釧路方面本部の女性刑事を主人公とした長編ミステリ-!>

by kogure613 | 2020-12-13 22:00 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(0)

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