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黒沢清『スパイの妻』2020年 BSNHK

2021/4/13(火)

昨夜の放送録画で、ようやく、黒沢清『スパイの妻』を鑑賞する。

冒頭が、1940年、神戸生糸検査所が出てくる。イギリス人の逮捕シーン。ここは(ロケ地ではないかも)、結構、出かけたところだ。https://kiito.jp/

https://design.city.kobe.lg.jp/kiito/history/

あと、旧グッゲンハイム邸もロケ地として挙げられている。

 

2回目も確認したが、黒沢清監督の特色の一つである、風の演出がとても少ない。神戸への空襲のあとの煙や、ラストの海岸には風は吹いているがそれが大きくクローズアップすることがなく、主人公の福原聡子役の蒼井優に映画も鑑賞者も集中している構図。


小津安二郎の正面バストショット切り返しがあり、溝口健二的長回しがありつつ、光と影、瞬間的なホラー(もちろん、満州で偶然遭遇した人道違反の残虐行為というホラーを超えた事実があるが)。


基本は、サスペンスで後半からは戦争を挟むメロドラマのオマージュ。風はどこに吹いていたかとか、細かいところはもう一度見てチェックしよう。どうしてもストーリーに夢中になってしまうし、音楽が、おっと、ここで鳴るのか、とか、音響の効果がなかなかので、そちらにも意識が動く。何度かは見るな。

当時の映画の話が会話に挟まれる。実は、津森のところに、秘密ノートを渡しに行ったのだが、口実は、聚楽館にて、19409月に溝口健二監督の『浪速女』を見るという設定。

 

実際に、福原夫妻が観た映画は、山中貞雄『河内山宗俊』(1936年)だった。二人が観た1940年は、2年前に満州で亡くなった山中貞雄に対して、「京都の大雄寺に「山中貞雄之碑」が建立され、小津による碑文が刻まれた」そうだ。

 

黒沢清『スパイの妻 劇場版』2020年、115分、ビターズ・エンド。

蒼井優:福原聡子・・ほぼ洋装、津森に秘密ノート(731部隊)を渡す時だけ着物

高橋一生:福原優作・・8ミリフィルムでノワール短編映画を作って遊ぶ。福原物産の倉庫の金庫まで使い・・

東出昌大:津森泰治・・神戸憲兵隊分隊長、聡子にずっと惚れている

坂東龍汰:竹下文雄・・福原家の甥。聡子系か。秘密文書の英訳

笹野高史:野崎医師・・オープンカーを夫妻に貸してくれて、精神刑務所に入っている聡子を救い出そうかと申し出る

恒松祐里:駒子・・福原家のお手伝いさん。若くて聡子に親しみを持っている

みのすけ:金村・・福原家の執事のような役目

玄理:草壁弘子・・満州から福原優作と竹下文雄が連れて帰り、有馬温泉のたちばな旅館に仲居として働くが・・



脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清

音楽:長岡亮介

制作著作:NHKNHK エンタープライズ、InclineCI エンタテインメント

制作プロダクション:CI エンタテインメント

配給:ビターズ・エンド

配給協力:『スパイの妻』プロモーションパートナーズ

2020/日本/115分/1:1.85

公式サイト:wos.bitters.co.jp

20206月にNHK BS8Kで放送された黒沢清監督、蒼井優主演の同名ドラマをスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として劇場公開。1940年の満州。恐ろしい国家機密を偶然知ってしまった優作は、正義のためにその顛末を世に知らしめようとする。夫が反逆者と疑われる中、妻の聡子はスパイの妻と罵られようとも、愛する夫を信じて、ともに生きることを心に誓う。そんな2人の運命を太平洋戦争開戦間近の日本という時代の大きな荒波が飲み込んでいく。蒼井と高橋一生が「ロマンスドール」に続いて夫婦役を演じたほか、東出昌大、笹野高史らが顔をそろえる。「ハッピーアワー」の濱口竜介と野原位が黒沢とともに脚本を担当。「ペトロールズ」「東京事変」で活躍するミュージシャンの長岡亮介が音楽を担当。第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。>

 

(参考)

https://www.cinra.net/column/202010-wifeofaspy_kngshcl?page=2

<劇中で引用される『河内山宗俊』(1936年)の監督である山中貞雄は、28歳で戦病死した。まさに『スパイの妻』で描かれた苛烈な時代を生きたこの監督が、後世に残した3本の現存する長編フィルムや、託した意志が、『河内山宗俊』のラストシーンに呼応し、「感動」を誘うことは否定し難いだろう。だが同時に、山中貞雄こそ、ありとあらゆる人の営みや感情を、「百万両の壺」や「将軍家から譲られた小柄」といったマクガフィンの本質的空虚さを通して、「紙風船」の「軽さ」に還す作家であったことを記憶しておくべきである。彼は、「面白さ」が生じさせる「居心地の悪さ」を、あの時代の只中で、すでに体現していた者の一人なのかもしれない。>

 

(参考)

黒沢清監督が『スパイの妻』で達した新境地 とてつもなさを秘めた、新しいメロドラマの完成形 文=小野寺系

2020.10.29 Real Sound

https://realsound.jp/movie/2020/10/post-645185.html

<蒼井優を主演に、高橋一生を共演に描かれていくのは、ある女性の視点から捉えられた、1940年の日本の姿。第二次世界大戦が勃発して間もない頃、真珠湾攻撃によってアメリカと開戦する前年のピリピリとした緊張感ただよう時代である。

 

<高橋一生が演じるのは、若くして神戸で貿易商を営み、洋風の豪邸に住んでいる優作。蒼井優演じる聡子は、その妻として日々を送っている。二人の生活が急変するのは、優作が満州から帰国してからだ。彼の態度の変化や行動に不審なものを感じた聡子は、一人でその理由を調べ始める。そんな聡子の究明は、戦時中における日本の闇という、より大きな真実を暴き出すことにつながっていく。

 

<もともとNHKTVドラマ作品として製作され、放送とは別に映画版として作り直されている本作は、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で使用された大規模なオープンセットを使用し、さらには、ドイツ系アメリカ人の貿易商が明治期に神戸に建てた「旧グッゲンハイム邸」でカメラを回している。

 

<黒沢監督の分かりやすい変化は、やはり俳優の扱いについてであろう。例えば『カリスマ』(1999年)や『回路』(2000年)のような鋭さが前面に出ていた時期の作品では、俳優を俳優として撮る、風景を風景として撮るというよりは、極端な言い方をすると、空間の中で肉塊が動いているような、おそろしく客観的な冷たさがあった。そして、そこに作品としてのコンテンポラリーな面白さがあった。

 

<本作では、そのような描写が多用されてはいないが、例えば冒頭で貿易商が逮捕される場面や、憲兵による拷問の残酷な描写をそのまま見せずに、後ろ姿と音で表現するという不気味な演出、または空襲の轟音と炎の光が外に見える室内を聡子がゆっくりと歩き出す描写など、要所において黒沢監督の個性際立つ作風が見られるのである。そして、それが本格的なサスペンス演出の文脈としても十分に機能している。その意味で、シーンには二重の価値が付与されているといえるのである。

 さて、本作は前述した『旅のおわり世界のはじまり』同様に、メッセージ性が強い作品である。その試みの一つは、日本の戦争犯罪を見つめるという行為である。

 

<劇中で優作が「コスモポリタン(世界主義)」と表現するように、彼は人類全体の正義を考えて、そんな日本軍の行為を告発するべきだと考える。それは、戦争へ向かい多様な考え方が許されない時代の日本国内においては犯罪行為である。そして、優作はもちろん、それに賛同し告発に協力していることを知られてしまえば、聡子もまた大罪人だとみなされることになる。捕まれば確実に死刑に処されるだろうし、運が良くても牢獄か精神科病院に入れられることは免れないだろう。日本の罪を暴こうとする優作や聡子のような人物は、大逆人であり異常者だとされるのである。

 

 しかし、実際にはどちらが異常なのか。劇中で聡子によって語られるように、事実を知ったとき、人道に反する行為を見過ごし加担することこそが異常なのではないのか。牢獄や精神科病院の外と内が逆転しているのではないか。

<優作の最終的なねらいは、日本がアメリカと戦争し、敗れることであった。それはまた、日本人という共通項でくくられた「同胞」の命を犠牲にすることである。愛する人物の目的の達成が、日本人の大量死へとつながる。それは、当事者にとっておそろしいほどの罪悪感に身を浸すことだろう。しかし、その罪悪感が重ければ重いほど、被害が大きければ大きいほど、彼女の愛は深まっていくのである。この愛の物語が生んだ凄まじいほどの地獄の情景が、蒼井優の見事な慟哭によって両義性を持って表現されることになる。

 

<『スパイの妻』もまた、何よりもメロドラマであろうとするということが、戦争や、価値観を強制しようとする社会や時代の動きに対して、自由を掲げる一種の反撃になっているのではないだろうか。

 

< 本作の脚本は、黒沢監督が教えていた東京藝術大学の生徒たちである、野原位と濱口竜介との共同で書かれている。本作のような規模の作品を、オリジナル脚本で撮ることができたのは、様々な尽力があってのことだろうが、それだけに黒沢監督の持ち味が十分に活きるものとなっていた。

 

<最も分かりやすいのは、「映画」が重要な意味を持つ部分であろう。優作は、溝口健二監督への憧れがあり、自分でも聡子を主演に劇映画を撮ってしまうほどの映画マニアである。そして、その趣味こそが重大な証拠を握ることへとつながるのだ。そう、ここでは「映画」が世界を動かし、一国の運命を決するのである。ここまで映画本位な物語も珍しいだろう。

 そして見逃せないのは、山中貞雄監督の映画作品が上映されるシーンである。山中監督といえば、満州に出征して、帰らぬ人となってしまった映画監督だ。まだ若くして世を去ったため、彼が監督した作品は比較的少なく、フィルムが現存し鑑賞できる作品はわずかしかない。だが、日本を代表する世界的な監督である、小津安二郎や黒澤明をも凌駕するセンスがあり、生きて映画を撮り続けていれば、世界で知らぬ者はいないほどの存在になっていたはずである。

 

<蒼井優と高橋一生は、幾度となくバストアップのツーショットで撮られ、ときにわざとらしいまでに、ハリウッドスターのような美しさを湛えている。さらに、蒼井の時代がかった喋り方や、いまは全く見られなくなった、正義に燃える熱血漢としての演技を披露する高橋。この二人の演技に、演出も照れを捨ててしっかりと応えている。

 『スパイの妻』は、このように表面的なオマージュやパロディを超え、普遍的な感覚のなかで、それでも黒沢監督の持ち味を効果的に活かした、新しい本格サスペンスであり、新しいメロドラマの完成形となっている。>


by kogure613 | 2021-04-13 22:00 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(0)

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