柳美里『JR品川駅高輪口』
2023年 04月 14日
2023/4/14(金)
今日は、長袖Tシャツだけで十分な気温。
グランドゴルフもまずまず。
中日ドラゴンズに少し生気が感じられだした。
石川昂弥選手効果が続くといいな。
読んだ本。
柳美里『JR品川駅高輪口』河出文庫、2016年(最初は『まちあわせ』)。2012年、『自殺の国』として単行本。
『JR上野駅公園口』に比べると、主人公がとても若いので、個人史が短く、2012年頃の同時代が、薄いベーコンのように、コラージュされている感じ。プラットフォームが、生と死の境になっていることもあって、駅の放送やチャイムが繰り返される。列車内の会話。意味があるようでないようで。目は閉じることができるが、耳は強制的に聴かされる(そういう理由もあって、イアフォンで周りの人たちとの関係を避けているのだ)。
高校一年生の女子生徒の目線で。ネットによる自殺サークルが盛んに言われていた頃。いまもあるのかも知れないが、ニュースであまり聞かなくなったが。
<全米図書賞受賞のベストセラー『JR上野駅公園口』と同じ「山手線シリーズ」として書かれた河出文庫『まちあわせ』を新装版で刊行。居場所のない少女の魂に寄り添う傑作。
全米図書賞(翻訳文学部門)受賞作&30万部を超えるベストセラー『JR上野駅公園口』に並ぶ「山手線シリーズ」の1冊が河出文庫に登場(文庫『まちあわせ』新装版)。
誰か私に、生と死の違いを教えて下さい――ネットに飛び交う「自殺」「逝きたい」の文字。電車の中、携帯電話を手にその画面を見つめる少女、市原百音・高校一年生。
形だけの友人関係、形だけの家族。今日、少女は21時12分品川発の電車に乗り、彼らとの「約束の場所」へと向かうのだが――。
居場所のない「一人の少女」の「魂」に寄り添い描かれた傑作。
*「新装版あとがき 一つの見晴らしとして」収録
*解説=瀧井朝世「死なない瞬間」>
https://allreviews.jp/review/4562 より(江國香織)
<ごくありふれた少女、というのは繊細な少女のことだ。繊細で、当然ながら独特で、知識も経験もすくなく、だから自信は持てず、不安で、でも自意識は余るほどあり、周囲を観察し、観察すれば失望したり批判的になったりせざるを得ず、けれど周囲を気遣う術(すべ)も心得ていないわけではないので、陽気にふるまったり、迎合するふりをしたりも、する少女。
本書の主人公、市原百音(もね)は、そういう普通の少女である。小説を読む限り、家族とも仲がよく、友達もいる。私はそこをおもしろいと思った。すくなくとも他者から見る限り、彼女には「自殺」する理由がないのだ。そして、本人もそのことを知っている。
ここには、勿論テーゼが含まれている。自殺する理由がない、ということが、自殺しない理由、すなわち生きる理由になるのかどうか――。さらに、仲のいい家族というものの、仲はほんとうにいいのか、友達だと言い合っている人間を、信じる根拠はどこにあるのか。そんなことを考え始めれば、少女でなくとも途方に暮れる。何かを考えるのは危険なことだ。でも、考えない危険より、はるかに安全な危険だ。
市原百音は途方に暮れている。「自殺」という考えを玩(もてあそ)んでいるし、そこに逃げ込みもする。悪いことだろうか。少女というのはそもそも概念を玩ぶのが好きな生き物だし、安全だと感じられる場所に、逃げ込むのも大好きな生き物なのだ。
そういう生き物の生態が、ここには書きつけられている。女子高校生の生活様式、行動範囲、交友範囲、そのディテイル。たとえば、「一人暮らししたら、部屋をデコったりしない。なぁんもない空っぽの部屋で暮らす。テレビとか電子レンジとか食器とかも要らない。ベッドと枕とお布団だけあればいいや」という一節や、「タバコ吸いたい。でも、クマたんたちがタバコ臭くなるのは、イヤだ」という一節から透けて見えるもの。カラオケ屋で友人たちと「写メ」を撮る場面の痛々しさ。十代の女の子たちの、多分に強迫的な友情の、残酷さや虚しさや。変らないんだなあと私は思った。そして、大変だなあと同情した。
それにしても柳美里の文章は、やすやすと巧みだ。この本には一人称と三人称が混在するのだが、どこで切り替わったのかわからないくらいいつのまにか(、、、、、、)切り替わっている。一人称と三人称がこれほど自然に、まったく違和感なく混在する本を、私は他に知らない。
読者はその巧みさにあやつられ、気がつくと市原百音と一緒に電車に乗っている(この本には、電車のなかの場面が多い。読む乗車体験(、、、、、、)といっていいほどの、その臨場感には驚く)。百音という少女は電車のなかでも死を想い、どんどん死に近づいていくのだが、同時に、たとえば自分の奥歯の「銀の被(かぶ)せ物」を「舌の先で舐め」、「就職して自分でお金稼げるようになったら、最初のお給料で、この奥歯を白くしてやる」と考えたりもする。
これは可憐な青春小説だと私は思う。不穏で毒々しい社会にあって、彼女はしっかりまっとうなのだ。>

