伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』・・「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」
2023年 12月 22日
2023/12/22(金)
読み終えた小説。
『フィッシュストーリー』
伊坂幸太郎さんの中編小説が4つ。長編しか読んでいなかったので、新鮮だった。
「動物園のエンジン」
まず、伊坂ワールドには、動物園が大事なスポットの一つ。
絶滅してしまった鳥とか、この物語のように、逃げ出す動物が主役になったりすることも特徴だな。
「サクリファイス」
県境の限界集落、秘境のような「小暮村」。確かに、小暮というのは、そういう架空の寒村に相応しい名前。人身御供の儀式が残っていて、そこがミステリーとして使われる。
「フィッシュストーリー」
どうして、魚の話が洞話になるんだろうね。
小説のタイトルで、その一節がロックバンドの歌詞になって・・・
映画になっているという。確かに、骨格は長編のようになっているし、登場人物も変化があり、時間の経緯も長い。
「ポテチ」
コミカルな人情噺。
大西若葉という女性のキャラが、結構珍しいタイプ。美しいのだけれど、上品ではない。ガサツに近い。ざっくばらん。いままでに近いキャラの女性はいたかなあ?
取り違え。コンソメ味のポテチが欲しかったが、塩味を間違って食べたら、こっちも美味しかった、という細やかな話が、もっと重大な取り違いを仄めかす。
伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』新潮文庫、2009年、2007年単行本。
https://hyakuhon.com/novel/fishstory/
<『動物園のエンジン』(『小説新潮』2001年3月号)
動物園に勤務していた永沢はシンリンオオカミを一匹逃がしてしまい、責任をとって退職。
永沢は『動物園のエンジン』といわれていて、彼がいるのといないのとでは動物園の雰囲気が違うのだといいます。
辞めてからは夜の動物園で寝泊まりし、朝になるとマンションの建設予定地に行き、反対運動をする主婦に交じってプラカードを掲げていました。
その行動に一体何の意味があるのか?
私と河原崎はその行動の意味を調べ、やがて意外な事実を知ります。そして、私とは違う視点が所々挟まりますが、この視点は誰のものなのか。これも意外性があるので、ぜひ推理してみてください。
『サクリファイス』(『別冊東北学』2004年8月号)
『ラッシュライフ』や『重力ピエロ』などに登場する泥棒の黒澤。彼は山田という人物を探して宮城県の端っこにある小暮村にやってきました。
小暮村は集落の集まりですが、部外者が来れば隠れられるはずもなく、黒澤は苦戦します。
一方、小暮村には『こもり様』という風習がありました。誰かを生贄に捧げれば災難が去るというもので、現代では生贄こそありませんが、生贄役の村人が洞窟に閉じ込められます。
黒澤が来たタイミングがちょうどこもり様が行われていた時で、黒澤は村人の話を聞く中で村に隠された秘密を知ります。
怖さがある作品ですが、泥棒の黒澤ならではの考え方が面白く、本書の中でもおすすめの話です。
『フィッシュストーリー』(『小説新潮』2005年10月号)
この物語は三十数年前を起点にして、二十数年前→現代→十年後と時間が流れ、これらの時代を『fish story(ほら話)』という楽曲が繋いでいます。
売れなかったバンドの楽曲が時代を越えて誰かに届く、というロマンの詰まった物語で、もっと広げて長編としても十分成立するほどよく練られた設定になっています。
『ポテチ』(書き下ろし)
空き巣の今村と、同棲相手の大西若葉。
二人はプロ野球選手の尾崎の家に侵入しますが、尾崎に助けを求める女性からの留守番電話を聞き、女性の元に向かいます。今村は女性を助けようとしますが、そこから物語は思いがけないラストを迎えます。
黒澤が登場したり、『ピタゴラスの定理』をはじめて発見したと勘違いするほど今村が純粋だったり、会話がいちいち面白かったり、タイトルに込められた意味が思いのほか秀逸だったり。
僕もそうですが、この話を一番に推す人が多いほどの名作です。>

