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「いまだ評価されていない価値」だってまわりにはいっぱいあるよ、とくに文化の分野にはね

午前中、ライブラリーとしてうちのセンターで発行された本をぴらぴらめくっていたら、はまってしまって、最後まで読む。特に阪本さんの論文。固有価値と文化的価値、そして価値財、効用アプローチに対する機能アプローチと潜在能力アプローチ。文化経済学の基礎理論はようやく一本の線として見えてきたように思う。アーツが未来はいまだ定まっていないことを告げるささやきだといい続けている私とまったく同じ道を経済学がすすんでいることの確認。
・・・文化経済学における価値の概念は、いずれの場合にも(小暮注:ラスキンの固有価値論にせよ、スロスビーの文化的価値論にせよ)、支払い意思額に現れない有用性(worth)に価値(value)を与えようとする試みであると言うことができよう。それに加えて、人間の享受能力に注目していることがその特徴である。:阪本崇「文化経済学における価値の概念」p117、端信行・中谷武雄編『文化によるまちづくりと文化経済』(晃洋書房、2006.3)より

個人的にラスキンの固有価値というのが、本物はすごいのだという権威主義的な押し付けと錯覚しがちで敬遠していたが、それは、結局、「いまだ評価されていない価値」だってまわりにはいっぱいあるよ、とくに文化の分野にはね、という、価値=市場価値=価格至上主義への警告あるいは創出される未来の文化への希望だったのだということ。なるほど。あとは、これを政策手法とリンクすることだ(創造都市論もそのミリューが少し騒々しいので敬遠しているが、もちろん重要な論点がいっぱいあるのであるわけです、はい)。

まずいろいろ準備して明らかにすべきこと:市場メカニズムは効用アプローチ以外にも及ぶ有用な機構なのかどうか。政治マーケティングとしての選挙=投票モデルや文化マーケティングを拡張しても届かない部分、つまり、固有価値(=社会関係資本をベースとした文化的価値=人びとが効用として評価していなくても、その潜在能力が開花するのを待っているにふさわしい文化資源)の発見はどうあるべきなのか。

とりあえず、固有価値/文化的価値の発見+支持(発見され支持されるには、潜在能力が開花して享受する機会が増加しなくちゃいけない)は、地域あるいはNPO的結社群(公共圏または親密圏をベースとするコミュニティとそのネットワーク)のガバナンスによるという仮説(つまり、「文化のまちそだて」の推進)の実践的な検証というふうにすすむだろう。アウトリーチは、潜在能力アプローチの政策実践の一つではあると位置づけていくことも大切だし。

森小路駅に降りると、4月から指定管理者として大阪芸術創造館を動かす小原さんに会う。
打ち合わせしていたということ。山口茜さんのお芝居に行くんですか、とても面白いものに仕上がっていますよという。きっと、山口さんの演出は、つねにうごいていくので、その過程がとても面白いのだろうと思う。

『ジンセイのスパイスにカンゲキ』第6回クラシック・ルネサンス。トリコ・Aプロデュース、夢魔、孤児の処置。



今回も、さまざまな実験を「近代戯曲」という私にはまったく未知(ほとんどの演劇関係者にとっても未知な世界で、レトロというような懐かしさを感じられる人はごく少数であろう)なので、特に、「夢魔」はチラシに書いてあるあらすじを読まないと何がなんだかどんどん分からなくなっていく。

いや、分からなくしようという意思があって、その分からなさがこの戯曲だということを示しているのだろうとはようやく思える感じ。つまり、台詞がばらばらに複数の話者に分有され、役柄が混交するのである。だから、ここに至る(きっと完成というのがトリコの場合なかなか見つけずらい感じなのかも知れない)過程を知るともっと輻輳的に面白いはずだ。

それにしても、今回の舞台環境づくりは、うまくこの小屋を使っていたように思う。鉄格子の中にいたために、いつも役者は背後からくるので、それだけで怖い。後半の「虎児の処置」は前に見ていたので、異動が楽しめる分、不可解さは減少。うちの学生も出ていて、うちの学生だけ若くて下手くそだったら困るなあと思ったが、まず、とび蹴りとかバシっと楽しそうにしたのをみて安心。それからさきは、もうそういう身内観劇ではなく、自転車が回り、ダンス的な演出を楽しむ。最後に生唄。
Commented by naomatsu724 at 2006-03-25 11:44
はじめまして! naomatsu724です。
文化と経済についての考え方については、経済学的見地、文化的見地によってその考察結果が異なると思います。
僕自身、まだまだ勉強不足なのですが、今後も学際的に経済学を勉強していこうと思っています。
非常にいい刺激を受けさせていただきました。

勝手ながらリンクを貼らせていただきたいのですが、よろしくお願いいたします。
また、来させていただきます。 突然、申し訳ありませんでした。
Commented by kogure613 at 2006-03-25 11:55
naomatsu724さま
はい、いいですよ。経済学を勉強しているのですね。
こちらは、行政畑だったので、学問をするのは、じつに遅くって、
30年前に法学部だったけれど必修だった経済学レベルです。
まだ、法社会学は興味があって、社会学はちょっと仕事をしつつ(地域振興関係だったこともあり)、かじりつづけてはいたんですが・・
いまは、アーツマネジメント学・・そろそろ私などよりもすごく革新的な体系をもった若手研究者が続々と出てくるような予感。そのときに、まあ、先駆者の一人として残るかなあ???って感じですね。じゃあ。こぐれ
Commented by しらと at 2006-03-25 23:45 x
>価値=市場価値=価格至上主義への警告あるいは創出される未来の文化への希望

今月は、人事のニュースで、このことを考えさせられるような話を聞き、なんともやりきれなさと自分の勉強不足に対する歯がゆさが入り混じった気持ちです。
ラスキンの本、たしか岩波文庫で買っていた記憶があったのですが、どこにいったかな(汗)
by kogure613 | 2006-03-24 23:08 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(3)

こぐれのぶお・小暮宣雄 写真は春江おばあちゃんと・サボテンの花嬉しく 


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