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常磐津綱男師歴三十周年『常磐津演奏会』&『ラストデイト』フジハラビル

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12時から17時半ほど、国立文楽劇場でずうっと常磐津を聴いた。
踊りがつくものもあって、そのときは、ほとんど三味線(中竿)の常磐津綱男さんの弾き姿をつぶさに眺めることがなかったけれど、それ以外は、中竿(ちゅうざお)三味線の微妙な音色を中心に聴いていた。普段のホールでの集中感ではないが、ほどよくあれこれ客席も出入りがありつつ、とても貴重な聴取をさせともらった。

もちろん常磐津節(その音楽)は、浄瑠璃であり語り物であるので、義太夫節、それもここ文楽劇場で拝聴する音楽と同じ系統である。でも、歌舞伎音楽として十八世紀半ばに江戸で開花したこと、それ以降の清元や新内ほどではないが、豪快さから繊細さ、小粋へと移行するちょうどまん中あたりの芸能である。それゆえに、江戸時代の芸能のスペクタクルをすべて含んでいるため、じつに興味深く他の芸能(といっても、少ない体験しかないけれど)と比較できるし、当日パンフが充実していたために、とても勉強になった。

常磐津綱男師歴三十周年のお披露目会であるから、私のような関係者以外の人は少ないのだろうし、最後にあって、聴けなかった『恨葛露濡衣~道行から久八意見まで』が人間国宝の常磐津一巴太夫の出演(松廼羽衣でお声が聴けてよかった)だから、それはとても残念である。でも、お能(謡)を題材にした作品を聞かせてもらうと、能のお囃子と三味線とが合奏されていて、じつに重層的な音楽文化の積み上げとしての日本芸能の特色がよく見えて、じつに興味深いし、常磐津で知った演目から能楽や文楽、歌舞伎(歌舞伎系のさまざまなジャンル)、あるいは、もっと下って浪曲や講談へと行くという道筋もあるはずで、どうしたら若い人たちがこういう楽しい経験が出来るようになるかを真剣に考えなくちゃと思う。

さて、フジハラビル。ここに行く途中、上方落語の定席となる意気込みで建設中の繁盛亭の建築現場を見て(運営が大変でしょうと藤原さん)、天満宮に入ると、知り合いの舞踏家がいて、いまから『ラストデイト』(作・演出:岩崎正裕)を観るので、というと、彼は絶句していて、えっ、4月じゃなかったのですかという。とてもあつく濃厚な舞台が実際に演じられていてとてもよかったのだが、惜しむらくはチラシの書き方で、まず東京公演4/14,15,16とあって、それから大阪公演3/24,25,26,27とあるので、きっと、東京の次だとその人は勘違いしたのだろうと思う。

でも、まだ27日大阪公演と3/31,4/1の京都アートコンプレックス1928公演(これもフジハラビルのようにそのまま室内の閉ざされた濃さではないにしても、とおりの自動車音が深夜から夜明けまでの微妙な空気を作ったりするのは同じだし、なんとしてもレトロビルとぴったりだからお奨めである)があるので、ぜひぜひというところだ。

音が音楽になる前の速度、鳴る前の音、とどかない前に消える音を聴いてしまう不在の人。
人間とか文化とかそんなフィルターを捨てた耳、その耳の疾走感。そう、失踪した疾走温度。

戸川純が鈴木いずみ役、奇異保が安倍薫役。はじめ、奇異保のキャラが戸川純とでは優しすぎるのではと思ったが、時刻と時代設定の妙もあって、けっこう、拮抗していたように思った。また観ている人たちが普段関西で観劇する人たちよりも匂いが濃くて括弧よかったなあ(アンダーグラウンドぽいいでたち)。1時間15分ほど。でも、始まる前の映像と音楽もよく客席にいて客席ではなく何かのクラブにまぎれているような感じ。
by kogure613 | 2006-03-26 08:05 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(0)

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