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熊谷博子監督作品『三池―終わらない炭鉱(やま)の物語』試写会

9/19(火)
今日も、アーツの扉の講義づくりにあてようと思っていた。
去年はじめて行った教養ものなのだが、少し興味をいだいてもらうために、クイズをしたりしてみようかとも思いつつ、でも、まず、アーツの歴史をきちんと調べ直すことからはじめる。

ゴリラもハミングしているのだから、500年前のヒト属だって・・・からはじまり、洞窟絵画とその儀式、ここからは日本にしぼりつつ、縄文式土器と土偶、天鈿女命の踊り(足踏みリズム)とシャーマニズム、雅楽に東大寺大仏開眼法要、声明とくに天台声明と真言声明、そして今様(梁塵秘抄)とトピックスを書き出す作業。もっと、はやくはじめなくちゃなあと思いつつ、ぼちぼち。

でも、丁寧なお手紙やファックスがあった映画の試写会が、大阪でこの私を固有な存在として呼んでいるような気がどうしてもした。それで、ぱたっと作業中断、あわてて身支度、そして、昼飯がさがさ。ぎりぎりながら、十三に到着した。13:30。

6階が第七藝術劇場で4階が試写会会場だった(中華料理屋さん)。2階のレッドライオン(岸田さんらによるライブ会場になっていたのでよく当時は行ったものだ)はカラオケかなにかになっている。
1998年秋に大牟田市で一度だけ会った熊谷博子さんがにこやかに立っている。シンポジウムを石炭産業科学館の階段広場みたいなところでやったあと炭坑節を踊った記憶がうっすら甦る。松井寛子さんが明るく出迎えてくれる。かわりなくお元気快活しかも大阪長屋的アットホーム。

ドキュメンタリー映画、熊谷博子監督作品『三池―終わらない炭鉱(やま)の物語』。第七藝術劇場は10/28、京都シネマは11/11となっている(終わってから神谷さんと熊谷さんが電話をしていて、隣の私に代わってもらい始めて神谷さんと話す。院生のKから私のことをきいていただいていたようで、かたじけなし)。

ほんとに、しずかな映画である。ドキュメンタリーって本来これでいいよねえというぐらい、オーソドックスなつくりの映画。一見突出する主張やメッセージ、派手な仕掛け、ドキュメンタリーでもよく見かける演出はほとんどない。

何せ、企画は大牟田市、大牟田市石炭産業科学館であり、「住民と自治体との新しいまちづくり」ということで予算が3年目にしてようやく出て始まったものである。淡々としているのはそのせいかとまず思う。でも、淡々としているのにはもっと深いわけが色々あるのだろうと映画を見出すとすぐに感じてくる。まず、7年間という長い歳月がそうさせたのではないか、と。
一気呵成ではなく、大牟田市と日本の時代の流れの変化を通過して、それでも残るものがここにあるのである。ある面角が取れ、漂白されている。それでもまだしつこく残すべき記憶だけがここにある。

つまり、「みいけ 炭鉱(やま)の声が聞こえる」(2003)、プロジェクト「こえの博物館」がその企画の始まりである。声を聞く、そのシンプルななかに残された声の重み切実さ深い躊躇いが、この映画をドライブしてきたのだ、熊谷さんと、吉田廸夫石炭産業科学館事務局長や次の事務局長、次の次の事務局長、そして館のスタッフを通じて。

近代化産業遺産。この映画を撮影しているあいだにも、とつぜん取り壊された重要な遺産がいくつもあったという。「負の遺産」なのだから、大牟田市の人たちとしてはそっと蓋をしておきたい、そういう発言が98年のシンポのときに会場からあって、それが熊谷さんを動かしたのである。時間がない。それが負であろうとも、いや、負であるからこそ、大切な文化遺産であるのだ、とそのとき、私はどうして言えなかったのだろう。しかし熊谷さんは一言「負」といってなかったものにしてしまう態度そのものを静かに淡々と問うという気の長い、ほとんど儲けなどとはほどとおい作業をこのとき開始したのである。もちろん、吉田さんのすばやく熱いアプローチがあったからでもあったが。

内容はまたこれからじっくり反芻しておくべき映画だと思う。日本の歴史が、三池炭鉱という歴史に刻印されていて、何一つおろそかに出来ないものとなる(陰の部分であるとはいえるが多くの教訓とそれに向かってきた激しく強く熱く優しい生き様が一人ひとりの顔と声として刻まれているので、陰が陽に反転する箇所がいくつもある)。
しかも、この映像を見なくては知らないままに終わってしまうことがあまりにも多い。与論島からの炭鉱労働者のこともその一つであり、三池闘争における第2組合による工作についての具体的な証言もまた、重く切ない。

それにしても、老人たちが語る言葉を一回では理解できない(東京で12回も見た方がいたという、それでも毎回新たな発見があったそうだ)さらにニュアンスまでを受け止めることは不可能だった。とりわけ女たちの生活や闘争についての証言は目を見張る。女たちの真摯さは男を完全に凌駕しているようにも思えて、女たちをこうして証言に向かわせたことが一番私には得がたく在り難いものだったように思ったと、とりあえず書きとめておこうと思う。
Commented by しん平 at 2006-09-21 14:17 x
すばらしい映画のご紹介。ありがとうございます。11月に京都シネマで上映されるようなので、是非見に行きたいと思っております。私にとっての炭鉱とは・・・土門拳であり、高田渡の「鉱夫の祈り」であり、長谷川集平の絵本「とんぼとり」であり、上野英信のルポルタージュであり、ははきぎ蓬生の「三たびの海峡」であります。「負の遺産」とじっくり向き合いたいと思います。
Commented by kogure613 at 2006-09-21 14:29
ありがとうございます。
しん平さんのコメントがあることで、何もこの映画の制作に寄与できなかった自分が少し救われる気がします。小暮宣雄
by kogure613 | 2006-09-19 22:13 | こぐれ日録 | Trackback | Comments(2)

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